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堀井隆行のペットの気持ちColumn

住商アグロインターナショナル ハーツ事業部"
Vol.5

犬と猫の嗅覚

著者:堀井隆行
臭気追跡や災害救助、麻薬や爆発物の探知に活躍する嗅細胞が多い犬
嗅覚に優れた犬、
では猫は?

犬といえば一般に「嗅覚に優れている」というイメージがあり、実際に臭気追跡や災害救助、麻薬や爆発物の探知など様々な作業で活躍しています。一方、猫は嗅覚に関する一般的なイメージはなく、嗅覚を用いるような作業用途もないです。しかし、猫の鼻が悪いわけではありません。確かに犬と比べると劣りますが、人と比べればはるかに優れた嗅覚をもっています。それでは、嗅覚の能力の優劣はどのように考えられているのでしょうか。


一般に嗅覚の能力は、ニオイ物質を感じ取る「嗅細胞の数」、嗅細胞が集まっていてニオイ物質を受け取ることができる表面積をあらわす「嗅上皮の面積」、脳でニオイの情報を処理する「嗅球の大きさ」から考えられています。嗅細胞の数は、犬で約2億2000万~10億個、猫で約1000万~2億個、人で約500万~4000万個といわれ、嗅上皮の面積は、犬で約15~150cm2、猫で約20~40cm2、人で約3~5cm2といわれています。文献によって数値にばらつきはありますが、犬猫のほうが人よりも嗅細胞の数が多く、嗅上皮の面積が広いことが分かります。また、嗅球の大きさを単純に比較する数値はありませんが、人の嗅球が目立たないほど小さいのに対して、犬も猫も大脳の前頭葉(目の裏側辺りの部分)の下方から前方に大きく突き出すように嗅球が大きく発達しています(特に犬は猫と比べても大きい)。このように、身体の構造上から犬は特に嗅覚に優れ、猫は犬よりは劣るものの人よりは優れているといえるわけです。

犬の嗅覚は、本当は人の何倍?

「犬の嗅覚は人の1億倍」という表現を聞きますが、どういう意味かご存知でしょうか。これは、ニオイ物質の濃度を薄めていき、嗅ぎ分けられる限界の濃度を犬と人で比較しているものです。よく聞く“1億倍”というのは、「犬は人よりも1億倍薄い濃度でもニオイを嗅ぎ分けられますよ」という意味になります。ただし、これは“酢酸”を嗅がせた場合の話です。実は、酢酸は1億倍でも酪酸(腐敗バター臭)は80万倍、エチルメルカプタン(ニンニク臭)は2000倍というように、ニオイのもとになる化学物質の種類によって嗅覚の感度は変わってしまいます。ですから、どのようなニオイに対しても犬が人よりも1億倍敏感なわけではありません。


また、“1億倍”の基になったデータが“ビーグル”の場合であることもポイントになります。ビーグルは、嗅覚によって獲物を追跡する能力を求められて改良された「セント(嗅覚)・ハウンド」の一種です。つまり、ビーグルは多くの品種の中でも嗅覚に優れた部類に入ると考えられるので、他の品種の犬はビーグルほどにニオイに対する反応が敏感ではない可能性があります。例えば、パグなどのマズルが短い品種では嗅上皮の面積が狭く、ビーグルなどに比べると嗅覚が鈍いといわれています。犬全体としては様々なニオイ物質に対して人よりも概ね3000~10000倍敏感とも考えられています。いずれにせよ、何でも一億倍とまではいかないものの、犬が人よりもはるかに薄い濃度でもニオイを嗅ぎ分けることだけは確かです。

犬猫は嗅覚を何に役立てている?

 人よりも発達した嗅覚をもつ犬猫は、生活上の様々な場面で嗅覚を活用しています。人がイメージしやすいものは、食物の嗜好性や安全性の確認です。例えば、“美味しさ”の感じ方に嗅覚の影響が大きいため、食物のニオイは食欲にも大きく影響します。他に食生活の面で犬猫は食物を探すことにも嗅覚を使います。特に犬の場合は、嗅覚を用いて獲物を追跡することが猫よりも嗅覚が発達した理由の一つとして考えられています。また、新しい環境に遭遇したときに、犬猫は嗅覚を使ってニオイから環境を確認しようとします。新しい場所では、入念にニオイを嗅ぐことで環境に慣れ、落ち着けるようになります。人がイメージすることが最も難しいのが、嗅覚を使ったコミュニケーションの世界かもしれません。犬猫は相手の体臭を嗅ぐことで相手を知ろうとします。これは、犬猫同士に限らず、人に対しても同じです。情報を多く含む体臭は主にアポクリン腺や皮脂腺の分泌物のニオイで、犬猫同士では口の周囲、耳の付け根、肛門周囲など、人に対しては腋の下や股間の周囲などの分泌腺が集まる部分を嗅ぎます。

猫が驚いた顔をしているのは猫の「フレーメン行動」。鋤鼻器の入り口にフェロモンを取り込む。

また、尿や糞、肛門嚢の分泌物も多くの情報を含み、マーキングに活用されます。いずれも人にとっては“臭いもの”でしかありませんが、個体識別情報だけでなく健康状態や発情の状態、さらには情動(気持ち)の状態までわかる情報が含まれていると考えられているので、犬猫にとっては“貴重な情報源”なのです。ですから、人にとっては臭い体臭や排泄物臭も犬猫は積極的に嗅ごうとします。このような体臭や排泄物臭の一部は鋤鼻器(じょびき/副嗅覚系)を通して、フェロモンとして犬猫の行動や生理に直接的に作用しますが、人では鋤鼻器が退化しているために“鋤鼻器で感じること”がどういう感覚なのかよくわかりません。

また、鋤鼻器といえば猫の「フレーメン行動」です。ニオイを嗅いでから上唇をあげて口を半開きにして、いかにも「臭い!」と言わんばかりの見た目に面白い行動ですが、実は上唇の裏側辺りにある鋤鼻器の入口にフェロモンを取り込んでいる行動なのです。ちなみに、犬はフレーメンをしませんが、舌をすばやく出し入れすることでフェロモンを取り込んでいます。どうやら犬猫たちは、人とは違う「ニオイの世界」を感じているようですが、ニオイをしきりに嗅いでいる愛犬・愛猫の姿から何を感じているのか想像を膨らませて楽しんでみてください。