より豊かな絆のために Hartz®(ハーツ)

堀井隆行のペットの気持ちColumn

住商アグロインターナショナル ハーツ事業部"
Vol.12

犬は服従させなきゃいけないの?

著者:堀井隆行
犬は飼育者よりも上に立とうとするのか?

 問題行動のカウンセリングなどで飼い主さんとお話をしていると、「この子は自分のほうが上だと思っているんです」や「私はこの子になめられているんです」など、家庭内に犬を含めた序列があることを前提とする話題が出てきます。犬と飼育者の関係について、しばしば主従関係や上下関係などと表現されますが、本当に犬は飼育者よりも上に立とうとするのでしょうか。

 犬が飼育者を群れの一員とみなし、そこに序列をつくるという考え方の原点は、犬の祖先がオオカミであり、オオカミが群れで生活して厳格な序列をつくるという知識からきています。しかし、この原点となる知識そのものに間違いがあるのです。古い研究では、オオカミの行動を観察しやすいように血縁関係のない群れを人為的につくって、実験施設内で飼育して研究が行われました。このような環境下で血縁関係のない群れの秩序を保つために、オオカミたちは闘いによって序列をつくったのです。ところがその後、自然環境下で生活するオオカミの行動が詳細に研究され、本来オオカミはほとんど争いのない家族の群れで生活していることが、現在ではわかっています。そもそも、オオカミの行動をそのまま犬に当てはめて解釈してしまったことも間違いだったのです。また、動物が序列を争うのは、生活資源や繁殖相手をめぐる場面なので、犬と飼育者が序列を争う必然性はどこにもありません。他にもポイントはあるのですが、いずれにしても犬が飼育者との間に序列をつくり、争って自分が上に立とうとすることはありません。飼育者が勝手に犬の行動を「反抗的」や「偉そう」だと解釈しているだけで、そのほとんどは犬にとって自己主張をしているだけか、あるいは完全な言いがかりにすぎないのです。自分の思いのままに行動してしまう犬はいても、飼育者の上に立とうとする犬はいませんので、お心当たりの飼い主さんは、愛犬に対する誤解を解いてあげてください。

人に服従する犬に育てなければいけないのか?

 人と犬が一緒に生活をする中で、犬の行動を人が導いてあげることはとても大切なことです。しかし、そのスタートラインが「人に対する服従心を養う」ことにあると考える人が今でも少なくないことは残念なことです。服従心を養うと世にいわれる方法には、脅す、叩く、殴る、リード・首輪でショックを与える、マズルをつかんで動かす(マズルコントロール)、仰向けにして抑えつける(アルファロールオーバー)など様々あります。いずれも、人の思い通りにならない犬の行動を抑えつけるものです。冷静に考えればわかることですが、「人に服従する」ということは、そこには「人に対する恐怖」があるということです。つまり、「服従心を養う」とは「恐怖心を植えつける」ということに他ならず、多かれ少なかれ恐怖で縛って犬にいうことを聞かせているのです。精神的にタフな一部の犬は服従心を養うように育てても心身の健全性を保ちますが、多くの犬が服従心を養うように育てて人を恐れて咬んだり、精神異常を引き起こしたりしている現実があります。人に服従する犬は、「かわいい犬」ではなく、「人におびえている犬」だということを知っておきたいものです。

犬の行動をどう導けばいいのか?

 「服従心を養わないで犬の行動をどう導くのか?」という疑問があることでしょう。基本的には犬が自発的に起こす行動で、人にとって望ましい行動を増やしてあげることです。学習の原理は簡単で、起こした行動に対して“犬にとって”良い結果を与えてあげればいいのです。「良い結果」としてよく使われるのが「食物」です。単純に言えば「長所を伸ばす」ということですが、学習理論の詳細は、またの機会にご紹介することにします。その代り、今回のコラムでは犬の自己主張(わがまま)を抑える接し方をご紹介します。まずは、犬に優しく、穏やかに、にこやかに接してください。これは、ほとんどの飼育者が問題なくできていることだと思います。ただし、飼育者が四六時中、犬に関心を寄せていると、犬は飼育者に注目しなくなります。飼育者に注目しなければ、呼ばれても来ませんし、オスワリなどの指示もなかなか聞いてくれません。適度に犬を放っておくことも必要ですので、ご注意ください。次に、犬が「○○してほしい」という自己主張をしたタイミングで、要求に応えないことが大切です。とはいうものの、犬は喋らないですから、具体的には吠えたり、飛びついたり、引っかいたり、噛んだり、暴れたりなどなど、様々な行動で自己主張を表現してきます。そのような行動には、“無反応”に徹することが必要です。「無表情」、「視線を合わせない」、「声を出さない」、「動かない」というのが“無反応”なのですが、かなり無意識的に何かしらの反応をしてしまう飼育者が多いです。無反応になっているか、客観的に見てもらうことも有効でしょう。飼育者の反応が得られなければ、犬は自己主張の行動を止めますから、止めた後に要求に応えてあげれば欲求不満も防止できます。

 このように、犬の望ましい行動には笑顔や声かけ、食物を与えるなど優しく反応し(犬にとって良い結果)、望ましくない行動には反応しないこと(犬にとって結果なしor悪い結果)が接し方のメリハリになり、「飼い主さんは自分の意のままには動いてくれない」ことを犬が学んでいきます。そうすると、飼育者への注目度は高まり、過剰な自己主張は抑制されていくのです。例えば、普段はニコニコしている優しいお母さんに無反応にされたときをイメージしてみてください。わざわざ体罰をふるったりしなくても、それだけで心に響きませんか。裏を返せば、それだけで心に響くような愛情ある犬への接し方を日頃から心がけて、“優しい保護者”になることこそが必要です。